第3回:組織を見るレンズを手に入れよう(システム思考入門)

組織の中で
「なぜこうなるんだろう?」
「どうして同じ問題が繰り返されるんだろう?」
と思ったことはありませんか?
実はそれ、目の前で起きている出来事の「背後にある構造」が原因かもしれません。
今回ご紹介する「システム思考」は、そうした見えにくい構造に気づき、複雑な問題の本質を見抜くための思考の道具です。組織開発を進めていくうえで欠かせない“レンズ”のひとつと言えるでしょう。
システム思考とは?
システム思考とは、物事を「全体のつながり」としてとらえる考え方です。
私たちはつい、目の前の出来事や個人の行動に注目しがちですが、システム思考では「背景にある構造」や「関係性」に目を向けます。
たとえば、ある部署で離職率が高いとします。
システム思考では、「人が辞めた理由」を個々の事情として捉えるのではなく、
「その部署に共通する構造は何か?」を問い直します。
- 評価制度が個人主義的すぎる?
- 上司のマネジメントスタイルが一方通行?
- 情報共有が不足して孤立しやすい?
こうした“構造”を見つけることで、表面的な対処ではなく、根本的な改善につなげることができます。
因果ループ図を使ってみよう
システム思考の代表的なツールが「因果ループ図(Causal Loop Diagram)」です。
これは、出来事と出来事の因果関係(=影響の流れ)を、矢印でつないでいく図です。
例:会議がうまくいかない理由
会議の雰囲気が硬い
↓
発言が少なくなる
↓
決定が曖昧になる
↓
会議が長引く
↓
会議の目的が見えにくくなる
↓
会議の雰囲気がさらに硬くなる

このように、原因と結果がぐるっと回っている状態を「ループ」と呼びます。
この例は「悪循環」のループです。逆に、プラスに働く場合は「好循環」と呼びます。
因果ループ図を描くことで、複雑に見える問題も「つながりのパターン」として整理され、対応のヒントが見つかります。
やってみよう!簡単なループ図づくりエクササイズ
Step 1:気になる“繰り返し”を見つける
「また同じことが起きたな」と思った出来事を書き出してみましょう。たとえば:
- プロジェクトがまた納期ギリギリになった
- ミーティングがまた長引いた
- メンバーがまた相談しないまま進めてしまった
Step 2:原因と結果を「矢印」でつなぐ
次に、「これが起きたから、次にこれが起きた」という流れを考えてみます。
例:プロジェクトが遅れたケース
- 途中で仕様変更が入る
↓ - 手戻りが増える
↓ - 作業が逼迫する
↓ - 十分なレビュー時間がとれない
↓ - クオリティが下がる
↓ - 納期直前に修正が発生
↓ - プロジェクトが遅れる(=ループに戻る)
Step 3:改善の糸口を探してみる
ループのどこかに「介入」できるポイントがあるか探します。
たとえば:
- 仕様変更を受ける前に「影響確認のチェックリスト」を作る
- 手戻りが多い部分をあらかじめ見直す
- 納期に余裕を持たせた設計にする
最初は手書きでもOK。チームで一緒にホワイトボードに描くのも効果的です。
日常業務から“構造”を見つける問いかけ
- なぜこのプロジェクトは毎回遅れるのか?
- なぜチームの会話が増えないのか?
- なぜミスの報告が後手になるのか?
こうした問いを立てるだけでも、あなたの中に“構造を見る目”が育ちはじめます。
関連記事のご紹介(構造を見る力を高めるために)
より実践的に「構造を見る」視点を育てたい方には、以下の記事もおすすめです:
- メタ化の実践方法:日常業務での活用法
→ 日常業務を一歩引いた視点でとらえるヒントが得られます。 - メタ化が進む組織 vs 進まない組織
→ パターンや構造を意識する組織とそうでない組織の違いを具体的に紹介しています。 - メタ化の限界と誤解
→ 思考しすぎによる“分析疲れ”にならないための注意点を学べます。
おわりに:レンズを持つことで見える世界が変わる
今回紹介したシステム思考は、一度身につけると日常の見え方が変わってきます。
問題を「個人のせい」にするのではなく、「構造のせいかも」と考えることで、
チームに優しく、建設的な関わりができるようになります。
そしてこの“構造を見るレンズ”は、今後の組織開発のさまざまな場面で役立つ大きな武器になります。
ぜひ、日常の中で少しずつ「つながり」「パターン」「構造」に目を向けてみてください。